歯列矯正の中でも、マウスピースを用いて行うインビザライン矯正は、今やメジャーな治療法の1つとなりました。
しかしインビザラインは、患者さんの症状によっては治療できない場合があります。この記事では、その症例とインビザラインが難しい場合の対処法について解説しますので、検討されている方は、ぜひ最後までご覧ください。
インビザラインができない症例とは?
インビザラインは、患者さんの歯並びなど口腔環境によって治療ができない場合があります。ここでは、その症例を9つ紹介いたします。
歯周病が進行している
歯周病とは、細菌によって歯を支えている骨を溶かし、最終的に歯を失ってしまう病気のことです。そのため、歯周病がある方は、先に歯周病の治癒をしなければインビザラインでの矯正はできない場合があります。
仮に歯周病を治さないまま、マウスピースを装着していると、歯周病が悪化するリスクがあります。そのため、矯正の負荷に耐えられず歯が抜けてしまうケースもあることから、先に治す必要があるのです。
もし、歯周病が進行している場合は、まず歯周病治療を行い、弱まってしまった歯が矯正によって抜けてしまうことを未然に防ぎましょう。
重度の歯並びの乱れ
歯と歯が重なり合い、元の位置から大幅にズレている歯並びを叢生(そうせい)といいます。
叢生の大きな要因は「顎が小さい」「歯が大きい」ことによるスペース不足です。重度の叢生となると、本来あるべき位置から大幅に歯並びがズレているため、歯を動かす距離が長くなります。
マウスピースは、歯を大きな幅で動かすことに向いていないため、重度の乱れた歯並びの場合、インビザライン矯正はあまり適していません。
また、重度の場合、歯を移動させるスペースがないことが多いため、抜歯が必要になるケースもあります。抜歯を行うと、歯を移動させる距離が増え、平行移動が苦手なインビザライン矯正では対応がより難しくなります。
受け口の症状がひどい
受け口の原因は、本来あるはずの位置よりも上顎と下顎がズレているからだと考えられています。
受け口でも歯並びを整えることはできますが、顎骨のズレが改善されるわけではありません。むしろ常に顎に負担がかかっている危ない状態です。そのため、長期間放置していると顎関節症の原因になります。
骨格に大きな問題がある受け口の場合、矯正治療と併せて外科手術を行い、顎の位置を治す必要があります。この場合、矯正治療と外科手術は健康保険が適応されます。
ただし、インビザライン矯正ではなく、ワイヤー矯正での治療が必要です。
出っ歯の症状がひどい
出っ歯は上の歯が下の歯よりも前に突き出している状態を示し、上顎前突(じょうがくぜんとつ)ともいわれます。
出っ歯の原因は、上顎の骨が成長しすぎることによって、上下顎のバランスが悪くなっていることです。もし仮に上顎の骨が正常でも、下顎の骨が発達していない場合には、上顎が前に位置してしまい、結果として出っ歯になります。
このように、骨格に原因がある出っ歯の場合、矯正治療と外科手術をそれぞれ行い、骨の位置を正しい位置にする必要があります。
重度の過蓋咬合
過蓋咬合(かがいこうごう)とは、奥歯を噛み締めた状態で、上の前歯が下の前歯に被さりすぎてしまい、下の前歯が見えない状態を示します。
過蓋咬合の原因は「上顎が異常で成長して長くなっている」「上顎より下顎が小さい」など、骨格に問題があるケースが一般的です。
もし過蓋咬合を治療せずに放置すると、顎関節への負担が大きくなり、顎関節症を引き起こしやすくなるなどのリスクがあります。
この場合、インビザライン矯正で歯並びを整えたとしても、骨格自体を治すことはできません。そのため、外科手術を合わせて行い、骨格を治す必要があります。
本数の多い抜歯矯正
歯列矯正において、歯を移動させるスペースは必須です。そのため、抜歯をして歯を移動するスペースを確保し、矯正を行うのが一般的です。
ただし、抜歯の本数が多いと歯の移動距離が増えるため、インビザライン矯正では適応できないことがあります。
インビザライン矯正は、歯を外側や内側に動かすことには向いていますが、平行移動には向いていないためです。
抜歯をする場合は、歯を動かす距離が増えるため、膨大な時間がかかります。そのため、インビザラインとワイヤー矯正の2つを併用して行うか、もしくはワイヤー矯正のみで矯正治療を進めていく必要があります。
インプラントが複数本ある
インプラントとは、歯を失った箇所に人工の歯根(インプラント)を埋め込み、人工の歯を取り付ける治療方法です。
歯列矯正は、歯の周りに存在する歯根膜を収縮させることで歯を移動させます。
しかし、インプラント治療を行うと歯根膜が失われてしまうほか、歯茎の骨にインプラントの土台となるものを埋め込むため、通常の歯のように矯正装置で動かすことができません。
そのため、インプラントが複数本ある場合、インビザラインでの治療が難しいケースとなります。
ただし、矯正したい歯とインプラントの歯が別で、インプラントの歯が矯正の邪魔にならない場合、インビザラインでの矯正ができるケースもあります。
もしインプラントとインビザラインの両方の治療を検討している場合は、先に歯列矯正を進めるとよいでしょう。
埋伏歯がある
埋伏歯(まいふくし)とは、生えようとしていた歯が途中で止まり、完全に生えていない状態の歯のことです。埋伏している歯があると、表に出ている歯の長さが短く、マウスピース型の装置では矯正が難しくなることがあります。
また、埋没歯があることで、マウスピースで歯を動かそうとするときに、根元にある神経を傷つける可能性があります。
そのようなリスクを回避するためには、埋没歯を抜歯する必要になるため、結果としてインビザラインは適用できない場合があります。
顎の骨格に異常がある
患者さんのお悩みの原因が、歯並びだけでなく骨格にもある場合は、マウスピース矯正では治せないといわれることがあります。
骨格が原因で歯並びが悪い場合、歯列矯正だけでは骨格までは変えられないため、インビザラインではなくワイヤー矯正をすすめるのが一般的です。
ただ、中には、骨格まで動かさなくても、歯列矯正で上下の前歯の位置関係が改善されただけでも口元の印象が変わり、コンプレックスが解消されるケースもあります。
気になる方は、治療を始める前に歯科医師に相談されることをおすすめします。
インビザラインができない症例の特徴
ここからは、インビザラインが適用できない主な症例の特徴を解説します。どのような特徴だとインビザラインが適用できないのか見ていきましょう。
歯の移動が大幅に必要なケース
インビザラインは、歯の移動距離が大幅に必要な場合は対応できないことがあります。
インビザラインは、歯を外側や内側に動かすといった微調整に適した矯正方法です。しかし、大きく平行移動させることには向いておらず、ワイヤー矯正の方が適してるのです。
そのため、抜歯が必要な口腔環境の場合、歯の移動が大きくなるため、ワイヤー矯正のみでの治療や、ワイヤー矯正を併用した治療を選択肢に入れる必要があります。
歯のスペース不足が顕著なケース
歯列矯正をするうえで、歯をきれいに整列させるだけのスペースは必要不可欠です。
しかし、そのスペースが不足した口腔環境の場合、スペースを確保するためにどうしても抜歯が必要になることがあります。
抜歯をした場合、スペースが生まれる分、歯の移動距離が大きくなります。そのため、インビザラインでは対応が困難になり、ワイヤー矯正のみでの治療や、ワイヤー矯正と併用した治療を検討する必要が生じるでしょう。
歯列が極端に乱れているケース
インビザラインを検討されている方の中にも、歯が一列に並んでいないことが原因だという方も多くいらっしゃるでしょう。
この症例は、顎の骨格が小さいことが原因だと考えられています。顎の骨格が小さいことで、歯がきれいに生えそろうだけの十分なスペースがないことから、歯列の乱れが生まれてしまうのです。
なかでも、歯と歯が重なって生えているケースや、1本だけ極端に飛び出して生えている歯があるケースは重度とされており、矯正するには抜歯が必要なケースが多く見受けられます。
そのため、マウスピースでの治療は難易度が高く、ワイヤー矯正でないと治せないと診断されることから、歯列が極端に乱れている場合はインビザラインの適応は難しいと考えられるのです。
インビザラインが向いていない人の特徴
インビザラインはマウスピースを用いて行う矯正方法のため、自己管理が必要な治療となります。こちらではインビザラインが向いてない方の特徴を4つ紹介いたします。
ご自身の普段の生活と照らし合わせてご覧ください。
マウスピースの衛生管理ができない
インビザラインの特徴は、取り外しが可能な点です。そのため、飲食時にはマウスピースを外すことができます。
ただ、取り外しの面倒くささから、食事の際にマウスピースを装着したまま、食べたり、飲んだりする方がいます。
糖分が入っている食品は、虫歯の原因になります。糖分がなくても、お茶やコーヒーなど色のついた飲食物はマウスピースの着色の原因となります。
食べたり飲んだりに限らず、基本的に飲食の際は水以外はその都度外すようにしましょう。
マウスピースを長時間装着できない
インビザラインで効果的な歯科矯正を行うには、1日に21時間以上の装着が必要です。そのため、必然と食事や歯磨きの際以外は、普段の生活では常に装着する必要があります。
装着時間が守れていない場合、歯が計画通りに動かず、一度動いた歯が元に戻ってしまう場合があります。
また、患者さんによっては再度マウスピースを製作しなければならないケースがあります。インビザラインを検討されている方は、装着時間を守るように心がけましょう。
口腔ケアを十分に行えない
インビザラインは取り外しができるため、ワイヤー矯正に比べると虫歯のリスクは低いです。しかし、だからといって油断をして虫歯ができてしまうと、虫歯治療によって歯の形が変わり、マウスピースを再製作しなければならなくなる恐れもあります。
歯周病を発症したまま、インビザラインを進めると、悪化が進行し、最終的には歯が抜けてしまう可能性があります。
そのため、虫歯・歯周病予防には注意を払い、日頃から歯磨きなどの口腔ケアを徹底して行いましょう。
定期的な通院ができない
インビザラインの場合、初診のタイミングで型取りや3Dスキャンでのシミュレーションによって、歯の動きを予測し、治療計画を作成します。
その後、装着時間に沿ってマウスピースを装着し、交換するという流れで診療が進むため、一見歯科医師の裁量が少ないように見えるかもしれません。
ただし、実際は患者さんからの要望や、今現在の歯並びなどに対して臨機応変に治療計画を調整する場合があるのです。
定期的に通院し、マウスピースや治療計画を微量でも調整することで、最終的な矯正の結果が変わってきます。そのため、インビザラインでの治療を進める際には、定期的な通院は重要です。
インビザラインの治療を検討されている方は、知識や経験の豊富な矯正歯科やクリニックで治療を受けることをおすすめします。
インビザライン矯正ができない症例の対処法
ここでは、インビザラインの治療ができなかった場合の対処法を紹介いたします。今後インビザラインを考えている方はぜひ、参考にしてください。
ワイヤー矯正
インビザライン矯正が対応できない歯並びの場合は、多くはワイヤー矯正を行います。ワイヤー矯正では、歯の表面にワイヤーを取り付けて歯を動かし整えていきます。
重度のガタつきや出っ歯の治療にも効果的で、インビザラインよりも強い力を利用し、なおかつ歯を迅速に動かすことが可能です。
ただし、インビザラインと違ってワイヤー矯正の場合は自ら取り外すことができません。
見た目が気になる方は、透明や白色のクリアブラケットを選択することで、目立ちにくくできるため、選択肢に入れてみるのはいかがでしょうか。
裏側矯正
裏側矯正は、その名の通り歯の裏側にワイヤーを取り付ける矯正方法です。
インビザラインでは治療できない歯並びを治せるうえ、通常のワイヤー矯正と比較して裏側に取り付けるため目立ちにくいなど、それぞれのいいとこどりをした治療方法となります。
ただし、通常のワイヤー矯正と比べて、裏側矯正は装置の取り付けが難しく、より高度な技術や経験が必要です。そのため、技術力と経験が豊富な歯科医師しか行えないうえ、治療費が一般的なワイヤー矯正よりも高くなることがデメリットとされています。
裏側矯正を希望される場合は、事前にクリニックで歯科医師と相談し、可能かどうかの判断をしてもらうことが必須です。
ワイヤー矯正との併用
たとえインビザラインでは対応できない場合でも、ワイヤー矯正を併用することで治療できる場合があります。
一例として、初めにワイヤー矯正を利用して大まかに歯の位置を調整します。その後、インビザライン治療でマウスピースを用いて噛み合わせの調整や、位置・向きなどを修正していくという治療方法です。
ワイヤー矯正とインビザラインを併用することで、片方だけでは難しい歯並びの調整が可能になります。
もし、インビザラインだけでは治療が困難なケースだった場合、併用を選択肢の1つに加えてみてください。
まとめ
インビザライン矯正は、取り外しができることや、透明で目立ちにくいなどの特徴から、多くの患者さんにとって魅力的な治療法です。
ただし、患者さんの口腔環境によってはインビザラインが最適かどうかは、必ずしも言い切れない部分があります。場合によっては、ワイヤー矯正や併用での矯正治療が最適かもしれません。
インビザラインを検討されている方は、一度矯正歯科に相談してみてください。